20年ほどカウンセリングを行っていると、多くの人がトラウマを抱えていることがわかります。しかし、本人はトラウマがあるとは気づいていないこともあります。例えば、緊張してしまう、パニックになってしまう・身近な人にキレてしまう・人に会いたくない・学校や仕事に行けない・お腹の調子が悪い・いつも肩がこっている、など、一般的な悩みの背景にトラウマが隠れている場合があります。
戦争、災害、事故、事件など、生命の危機を感じたりするような衝撃的なことが起きた後にPTSDになることがあります。厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」では、PTSDの症状が説明されています。
事件や事故・災害などに巻き込まれた後に生じるPTSDとは別に、発達性トラウマというものがあります。それは、子供の成長の過程で生じてくるトラウマです。虐待は発達性トラウマを作り出す大きな原因ですが、それ以外でも発達性トラウマが生じます。「その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ)」には発達性トラウマについて具体的に書かれています。
例えば、自身の病気、事故、医療処置、家族の病気や事故、自身や家族の長期にわたる入院や、家族に特別な世話を必要とする人がいるなどの原因によって、親からの十分な愛情を受けられなかった場合、発達性トラウマを作り出すことがあります。
また、不適切養育も発達性トラウマを作り出します。虐待は受けていなくても、「おまえは何をやってもうまくできない」「そんなことでは社会でやっていけないぞ」「兄さんの方がずっと優秀だ」「近所の○○君の方が勉強がよくできる」「そんな学校に行っていることがわかったら、親戚に恥ずかしい」「どうせお前は人に嫌われる」「気が弱すぎる」「強情だ」「背が高くて目立ちすぎる」「目が小さすぎる」など、さまざまに子供を批判する親がいます。あるいは日常的に「早くしなさい」とせかしたり、子供が「遊んでほしい」と「こっちみて」と言って親に近づいても、「あとでね」などと言って相手にしない。こういうことが積み重なると不適切養育になります。
ソマティック・エクスペリエンシング®️(SE™️)とは、トラウマ起因のストレスの生理学的モデルを用いたトラウマ療法です。自律神経系についての新しい理論であるポリヴェーガル理論をベースにして作られています。従来のトラウマ治療には、トラウマとなった出来事を思い出したり語ったりしている際にトラウマを再体験するリスクがありました。再体験するとトラウマに圧倒されてしまいます。話した後に気分が落ち込むこともあります。そのリスクを減らし、安全に、トラウマを克服していきます。
ソマティック・エクスペリエンシング®️(SE™️)では、トラウマに再交渉します。再交渉とはトラウマになったことを話して再体験するのとは異なります。トラウマには苦しかった時の感情やエネルギーが詰まっています。それらが解放されていないためPTSDの症状が現れます。
トラウマに再交渉するときは、その感情やエネルギーを少しずつ解放します。一度に急激に体験してしまうと圧倒されてしまい再体験してしまうので、時間をゆっくりにして、クライエントが耐えられる範囲に小さく分けて、ワンステップずつ解放して行きます。
SE™️タッチとは、ソマティック・エクスペリエンシング®️を用いたタッチセラピーです。クライエントは椅子に座るかマッサージテーブルに横になります。セラピストはクライエントの関節、隔膜、内臓などに手を置いていきます。触れることに抵抗がある場合はクライエント自身に触れてもらったり、意識を向けてもらったりします。
関節や隔膜、内臓には未解決の防衛反応のエネルギーが蓄積されており、そのため心身にさまざまな症状が現れます。手を置いたり意識を向けることでクライエントの体をサポートします。すると滞っていたエネルギーが自然と身体から抜けていき、症状が緩和されます。
マッサージやボディワークのように、クライエントの体に力を加えて真っ直ぐにするようなことはしません。クライエントの体の固まりが解けて、呼吸や血の巡りが全身に行き渡るようにサポートします。